Japan昔話
第2話 芳一が耳を無くすまで
第2話 芳一が耳を無くすまで
200BPM…よし、これくらい速ければ和尚も喜ぶに違いない。
芳一は今日も作曲活動に勤しんでいました。幼少時代から目が不自由だった彼は、何か個性をと徹底して親に作曲活動を仕込まれ、全身に音楽がしみ込んでいました。
そして音楽が趣味で業界に精通している近所の和尚に引き込まれました。親からしてみれば、木魚が打ち込み用の楽器に見えたそうな。
芳一は特に速い電子音や生楽器、打楽器(木魚)のコラボが得意で、誰一人その音を聴くと暴れずにはいられないほど聴衆の心をとりこにしました。
ある、蒸さくるしい夏の夜の事です。
芳一は和尚がいないのをいいことに、境内を全開にして爆音でプレイすることに決めました。
「寝ている皆の脳を覚醒させたかった」by芳一
後に芳一はこう釈明しましたが、この事がまさかあの恐ろしい悲劇に繋がるとは木魚を10個並べて高速ドラミングする芳一の脳裏にはまったく想定外の話でした。
ノリノリの芳一の前にガサガサと音が聞こえ、芳一の前に止まりました。
「yah man、芳一」
「あ?ちょっとまって、俺見えないから、で、誰?」
「いや…この先に住んでる金持ちの家から来た使いなんだけど、主人がさ、お前のその音がハンパ無いらしく家に連れてきて欲しいって」
「ギャラは?設備は?」
「好きなだけ、設備はもちろん整ってる」
「じゃあ行く」
芳一はその声の主に着いていきました。ここだと言われた先に到着し、辺りをなぞって見るとものすごいタム数のドラムと、PCが置いてありました。
試しにPCのマウスを言われるがままにクリックすると激しいギターサウンドとノイズが流れてきました。
それに合わせて叩いてくれ、そう声の主に言われると芳一は本物のドラムを前に狂ったように、いや、いつも通りに手数の多いドラミングを始めました。
「おお…これはすごいサウンドスケープだ、主人も喜んでいる」
芳一はPCから聞こえてくる感じのいい音に合わせて刻みつづけました。
それから芳一は毎夜同じ事を繰り返しました、だって設備がいつもの寺より良いからに決まってるジャン的な。
-いつもと作る音の感じが違う-
和尚は気づき、芳一に尋ねましたが芳一は「忙しい」の一点張りです、夫婦ならとっくに揉めている状態でしたが、和尚はいつも夜になると芳一が居なくなるのを昨日気づいていたので、そこは深追いしませんでした。
そして夜になり、芳一が寺を出て行くのを見た和尚は後をつけて行きました。そして和尚が見た先は、墓場で芳一が幽霊が半ばロックフェスの様な大暴れをしている中で一心不乱にドラミングをしている場面でした。
-コイツいつもより気が狂ったのか-
慌てて和尚は芳一を連れて帰りました。
和尚は芳一をこっぴどく叱りつけ、芳一が凹んでも叱りつけました。お前を預かるこっちの身にもなってみろ! まともな事いいやがってと芳一は思いながら、叱られた事よりも、あのPCに入ってるトラックが欲しかったとずっと思っていました。
和尚はもう面倒が起きないように芳一の体じゅうに魔除けの音符を書き記しました、これでもうお化けはこないだろう。ああ、すごいボディペインティング、ちょっと俺のiPhone持ってきて、これ撮ってブログに上げるから。
いいか芳一、声の主が来てもシカトしとけよ、じゃないとその楽器全部取り上げるから。
その夜、芳一はしぶしぶ作曲活動を続けていました。あの音を思い出しながら。
「yah man、芳一」
またあの声だ、芳一はシカトしました。
「むう、これはなんという曲だ…、しかし肝心の部分が読みにくいな、ああ、この部分か、ちょっと芳一引っ張らせてもらうよ」声の主はそう言うと芳一の両耳を思い切り引っ張り上げてちぎりました。
「……痛ッ!!!!!!!!!!!」
声にならない声を芳一は上げました、一応約束守らないと楽器取り上げられちゃうじゃん、芳一は面倒を嫌い我慢しました。
「ありゃ耳が、まあいいや、良い音を聞き分けられる耳を持って行けば主人は大喜びだ。じゃあな、芳一、もうお前用済みだわ」
声の主は去っていきました。
暫くして和尚が芳一の様子を見に行くと、そこには耳を引きちぎられて失神KOされた芳一の姿がありました。
「しまったぁぁぁぁあ!!!レーベルに売り飛ばす前に商品…いや芳一に傷がぁぁあああ!!!!!!!!!!!」
和尚は芳一の耳が無いand失神してるのを良い事に本音をカミングアウトました。
慌てて次の策を練った和尚は、「そうだ、耳なし芳一というアーティストとして売り出せば…、悲劇のヒロイン的な売り方すればいいし、コンプレックスを武器に、良い響きじゃないか」
とりあえず和尚は救急車を呼びました。ああ、これで今日キャバクラ行けないや、めんどくせーなぁ。まあコイツが売れたらキャバ嬢にモテるからいいやと思いながら。
その後、芳一は文字通り耳なし芳一というアーティストとして、今度は人間相手に高速ドラミング+打ち込みを駆使してフジロックなど主要なフェスに呼ばれるようになりました。
幽霊で培った観客を煽る技術も身につけました、Say! ho!って。
芳一…立派になりやがって。和尚はA&R(新人発掘担当)として、次の芳一を探す旅に出ました。
